世代を超えて受け継ぐ「お金の知恵」。親から子へ伝える価値観のヒント
はじめに:資産を「モノ」としてだけでなく「想い」として伝えるということ
資産の承継というと、不動産や預貯金といった具体的な財産をどのように分けるかという話になりがちです。もちろん、そうした法的な手続きや税金に関する知識も大切です。しかし、「世代を超える資産の智慧」が目指すのは、それだけではありません。
親から子へ、孫へと引き継いでいくのは、単なるモノとしての資産だけではなく、その資産に込められた想いであり、親御さんが人生を通じて培ってこられた価値観そのものであると私たちは考えています。特に「お金」に対する考え方や価値観は、その人の生き様や人生観が色濃く反映されるものです。
これから資産を承継する準備を始められる方の中には、これまで一生懸命働いて築いた財産を、子どもたちがどのように活かしてくれるだろうか、あるいは、お金に対する考え方について、自分の経験から得た知恵を伝えておきたい、と感じていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。
この度の記事では、資産承継の機会を通じて、親御さんが培われた「お金の知恵」や「お金に対する価値観」を、お子様へどのように伝えていくことができるのか、そのヒントをお話しさせていただきます。
なぜ、お金に対する価値観を伝えることが大切なのか
お金は人生を豊かにするための大切な手段です。しかし、その使い方や向き合い方を誤ると、家族の間で無用な争いを生んだり、受け継いだ財産が子どもの人生の足かせになってしまったりすることもあります。
過去にご自身の親御さんからの相続を経験された方の中には、お金に関する価値観の違いから兄弟姉妹との間にわだかまりが残ってしまった、というお辛い経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。それは、財産そのものだけでなく、お金に対するそれぞれの考え方が影響していたのかもしれません。
親御さんがどのような考えでお金を貯め、使い、社会と関わってきたのか。そこには、きっと子どもたちにとって学ぶべき大切な知恵があるはずです。倹約の精神、感謝して使うこと、人のために使うこと、投資や浪費についてなど、親御さんが人生で肌で感じてきた「お金の知恵」は、教科書には載っていない生きた教えです。
この価値観を共有しておくことは、お子様がご自身の資産を受け継いだ際に、それを大切に守り、またご自身の人生をより豊かにするために役立てるための道しるべとなります。そして何より、お金を巡る家族間の誤解や衝突を防ぎ、円満な関係を維持するために、非常に有効な手立てとなるのです。
どのような「お金の価値観」を伝えますか?
さて、一口にお金に対する価値観と言っても、人それぞれです。ご自身の人生を振り返り、お子様たちに伝えたい「お金の知恵」とは何でしょうか。いくつか例を挙げてみます。
- お金は目的ではなく、人生を豊かにするための手段であるという考え方
- 感謝の気持ちを持って使うことの重要性
- 物を大切にし、無駄をなくすこと(倹約の精神)
- 社会や人のために使う喜び
- 稼ぐことの尊さ、働くことへの価値観
- 借金や浪費に対する考え方
- 家族や大切な人のために使うお金について
- 将来への備えや投資に対する姿勢
リストアップしてみると、単なるノウハウではなく、人生観や倫理観に近いものが多いことに気づかされます。これらの価値観は、親御さんが困難を乗り越え、喜びを分かち合う中で自然と培われてきたものです。それは、物的な財産にも劣らない、あるいはそれ以上の価値を持つ「心の財産」と言えるでしょう。
「お金の価値観」を伝える具体的なヒント
では、こうした大切な「お金の知恵」を、お子様たちにどのように伝えていけば良いのでしょうか。
まずは、「伝える機会を作る」ことから始めてみましょう。資産承継の話を切り出すのは難しいと感じるかもしれませんが、例えば、
- ご自身のこれまでの人生を振り返り、お金で苦労した経験や、お金があったおかげで助けられた経験などを語ってみる。
- 「この家を建てるのに、こんな工夫をしたんだよ」「この土地は、先祖が苦労して守ってきたものなんだ」など、具体的な資産にまつわるエピソードを話してみる。
- 社会の出来事やニュースをきっかけに、お金について感じていることを話してみる。
といった、日常の会話の中に少しずつ織り交ぜていくことから始められます。
次に、「感謝の気持ちを添えて伝える」ことを意識してみてください。例えば、「あなたたちが困らないように、少しでも残してあげたいと思って頑張ってきたんだよ」といったように、財産を築く上での動機や、お子様への深い愛情を言葉にすることで、単なる「お金の話」ではなく、親心として受け取ってもらいやすくなります。
さらに、「書面にする」ことも有効な方法です。遺言書やエンディングノートに、財産の分け方だけでなく、「なぜこのように分けるのか」「この財産にはどんな想いが込められているのか」といった背景や、ご自身のお金に対する考え方、子どもたちへの期待などを記しておくのです。文章として残すことで、親御さんの真剣な想いがより伝わりやすくなります。
ただし、伝える際には「押し付けにならない」よう注意が必要です。「私の言う通りにしなさい」という一方的なものではなく、「私はこのように考えて生きてきたけれど、あなたたちはどう思う?」といった問いかけの形をとることで、お子様も心を開きやすくなります。お子様がご自身の人生経験を通じて異なる価値観を持っている可能性も受け止め、尊重する姿勢が大切です。
まとめ:心の財産としての「お金の価値観」を次世代へ
資産承継は、単なる法律上の手続きではなく、親御さんが積み重ねてきた人生と、お子様たちの未来を結びつける大切な機会です。この機会に、物質的な資産とともに、親御さんが人生で培われた「お金に対する価値観」を「心の財産」として、ぜひ次世代へ伝えていただきたいと思います。
お金の価値観を伝えることは、お子様がお金と賢く付き合い、ご自身の人生を豊かにするための助けとなります。そして、親子の、そして家族の絆をさらに深める素晴らしい機会となるはずです。
すぐに全てを伝えきる必要はありません。まずは、ご自身が何を伝えたいかを整理することから始めてみませんか。そして、少しずつ、お子様との会話の中で、ご自身の「お金の知恵」に触れてみてください。きっと、温かい心の交流が生まれることでしょう。
迷われることや不安なことがあれば、信頼できる専門家にご相談いただくことも良いでしょう。あなたの想いを伝えるための、最初の一歩を踏み出すことを応援しています。