世代を超えて心を通わす。資産承継の話し合いを始める前にしたい「心の準備」
資産承継の話し合い、始める前に大切な「心の準備」
ご自身の人生の節目を迎え、資産の承継について考え始める時、多くの方が「いつ、どのように家族と話し合おうか」と心を悩ませるのではないでしょうか。資産を分けるという行為は、ご家族にとって、そしてご自身にとって、これまで築いてきた関係性や価値観が問われる大切な機会でもあります。過去にご家族の相続で、予期せぬ感情のすれ違いや、話し合いの難しさを経験された方もいらっしゃるかもしれません。
「子供たちに苦労をかけたくない」「家族がこれからも仲良くいてほしい」——そう願うからこそ、話し合いの場を持つことにためらいを感じたり、何から話せば良いか分からなくなったりすることもあるかと存じます。
円満な資産承継を実現するためには、法的な知識や手続きも確かに大切です。しかし、それ以上に、ご家族の「心」を通わせること、そして何よりもご自身の「心」の準備をすることが欠かせません。
今回は、資産承継に関する家族との話し合いを始める前に、ぜひ行っていただきたい「心の準備」についてお話しいたします。この準備が、ご家族が互いを思いやり、穏やかな気持ちで未来へ向き合うための確かな一歩となるはずです。
1.まず、ご自身とじっくり向き合う時間を持つ
話し合いを始める前に、まずはご自身の内面に目を向けてみましょう。ご自身のこれまでの人生、家族への感謝や願い、そして資産にまつわるご自身の考えを整理する時間です。
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人生を振り返り、大切な価値観を再確認する
- どのような価値観を大切に生きてこられましたか?
- ご家族に伝えておきたい人生の教訓や哲学はありますか?
- ご自身の人生において、特に心に残る出来事や、そこから学んだことは何でしょうか?
- これらの振り返りは、単なる過去の話ではなく、ご自身の人生が家族にどのように影響を与えてきたか、そして今後どのような想いを引き継いでほしいかを見つめ直す機会となります。
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資産一つひとつに込められた想いを整理する
- ご自宅、土地、預貯金、株式、あるいは大切な思い出の品々など、一つひとつの資産にまつわるエピソードや、それを遺すことへの特別な想いはありますか?
- 例えば、ご自宅は家族とのたくさんの思い出が詰まった場所でしょう。なぜこの家を購入したのか、どのような暮らしを営んできたのか。そうした背景にある想いを言葉にしてみましょう。
- 資産のリストを作成する際にも、単なる金額や品目だけでなく、それにまつわる「想い」を書き添えてみることをお勧めします。これは、後にご家族が資産を受け継ぐ際に、その物質的な価値だけでなく、精神的な価値をも感じ取る助けとなります。
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ご自身の希望や願いを正直に受け止める
- ご自身の死後、資産をどのようにしてほしいですか? 特定のご家族に託したいもの、あるいは社会貢献のために役立てたいものなど、具体的な希望があれば書き出してみましょう。
- 同時に、「なぜそうしたいのか」という理由や、その希望に込められた「家族への想い」を深く掘り下げてみてください。希望の背景にあるご自身の真意を理解することが、後の話し合いでご自身の言葉に重みと説得力を持たせることに繋がります。
2.家族への想い、期待、そして不安と向き合う
ご自身の想いを整理したら、次はご家族へ目を向けます。
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ご家族一人ひとりへの感謝や願いを言葉にする
- お子様やお孫様、それぞれに伝えたい感謝の気持ちや、将来への期待、あるいは心配事などはありますか?
- 資産承継は、こうした個人的な想いを伝える絶好の機会でもあります。どのような言葉で伝えたいかを考えてみましょう。
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家族間の関係性、過去の経験からくる不安と向き合う
- 過去の相続でご家族間の関係性に課題が残った経験がある場合、それが今回の承継の話し合いにどのように影響する可能性があるか、正直に考えてみましょう。
- 「また同じようなことになったらどうしよう」「子供たちが不仲になったら悲しい」といった不安な気持ちと向き合うことは、それを乗り越えるための第一歩です。不安の根源を理解することで、話し合いの際にどのような点に注意すれば良いか、あるいはどのような準備が必要かが見えてきます。
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ご家族の状況や気持ちに思いを馳せる
- ご家族は今、どのような状況にあるでしょうか? 経済的な状況、健康状態、人生のステージなど、それぞれが抱える事情は異なります。
- また、ご家族はご自身の資産承継について、どのように感じているでしょうか? 不安、期待、無関心、さまざまな感情があるかもしれません。一方的に話を進めるのではなく、ご家族の立場に立って考える姿勢が大切です。
3.話し合いに向けた具体的な心の準備
ご自身の想いやご家族への気持ちを整理できたら、いよいよ話し合いに向けた具体的な心の準備を始めます。
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完璧を目指さない勇気を持つ
- 資産承継の話し合いは、一度で全てが決まるわけではありません。完璧な答えを出そうと気負いすぎず、「まずは話し始めてみよう」というくらいの気持ちで臨むことが大切です。
- 話し合いのプロセスそのものが、ご家族の絆を深める貴重な時間であると捉えましょう。
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感情的にならず、穏やかに伝える練習をする
- 資産やお金の話は、時に感情的な対立を生むことがあります。ご自身の想いを伝える際には、感情的にならず、落ち着いたトーンで話すことを心がけましょう。
- 伝えたい内容を事前に整理し、言葉に詰まらないよう、一人で、あるいは信頼できる相手に話してみる練習をするのも有効です。
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聞く姿勢を大切にする
- 話し合いは、一方的に伝える場ではありません。ご家族がどのような考えを持っているのか、どのような希望や不安を抱えているのかを、真摯に聞く姿勢が何よりも大切です。
- 相手の意見を頭ごなしに否定せず、まずは最後まで耳を傾けましょう。「聴く力」が、ご家族との信頼関係を築き、円満な話し合いに繋がります。
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必要であれば、専門家への相談を検討する
- ご自身やご家族だけでは解決が難しいと感じる複雑な事情がある場合や、法務・税務に関する専門的な知識が必要な場合は、弁護士や税理士、ファイナンシャルプランナーなどの専門家への相談を検討しましょう。
- 専門家は、客観的な立場からアドバイスを提供し、話し合いの円滑化をサポートしてくれます。専門家の知恵を借りることも、心の準備の一つです。
心の準備が、家族の未来を照らす
資産承継の話し合いは、単にモノやお金を分ける行為ではなく、ご自身の人生の集大成をご家族に伝え、ご家族の未来を共に見つめる大切な機会です。その一歩を踏み出すための「心の準備」は、不安を和らげ、ご自身の想いを整理し、そして何よりご家族と心を通わせるための礎となります。
過去の経験に囚われず、未来への希望を持って、まずはご自身の心とじっくり向き合ってみてください。そして、ご家族への「ありがとう」や、共に分かち合いたい人生の智慧に思いを馳せてみてください。
この心の準備が整ったとき、きっと穏やかな気持ちで、ご家族との大切な話し合いを始めることができるはずです。そして、その話し合いを通じて、世代を超えたご家族の絆は、より一層強く結ばれていくことでしょう。