言葉にできない想いを伝える。家族が心を通わせる資産承継のヒント
家族へ伝えたい、言葉にならない大切な想い
資産承継は、単に財産を次の世代に引き継ぐだけではありません。それは同時に、親が歩んできた人生や、家族への深い愛情、大切にしてきた価値観などを伝える、かけがえのない機会でもあります。
多くの親御さんは、「家族がこれからも仲良く、幸せに過ごしてほしい」と願っています。そのために、ご自身の想いや、なぜこのような形で資産を分けるのか、といった理由をきちんと伝えたいと考えていらっしゃることでしょう。
しかし、長年連れ添った家族であっても、改めて面と向かって感謝や愛情を言葉にするのは、時に照れくさく、難しく感じられるものです。「うまく伝わるだろうか」「何を話せば良いのか」と悩んでしまう方も少なくありません。かつて相続を経験された方の中には、こうした想いを伝えきれず、家族間に少し距離が生まれてしまった、という苦い経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、言葉だけでは伝えきれない大切な想いを、どのようにしたら家族へ届けられるのか、いくつかの具体的なヒントをご紹介します。資産だけでなく、心の財産も共に引き継ぎ、家族の絆をより一層深めるための一助となれば幸いです。
なぜ、想いを伝えることが大切なのか
資産承継の場面で想いを伝えることは、以下の点で非常に重要です。
- 家族の納得と安心感につながる: 資産の分け方に対する親の考えや願い、特定の財産にまつわる思い出などを伝えることで、受け取る側は「なぜこのように分けられたのか」を理解しやすくなります。これにより、不公平感や不信感が生まれにくく、家族は安心して承継を受け入れられます。
- 家族間の争いを未然に防ぐ: 想いが伝わらないまま手続きが進むと、憶測や誤解が生じやすくなります。親の真意を伝えることは、こうした誤解を防ぎ、家族が協力して承継の手続きを進めるための基盤となります。
- 家族の絆と価値観を次世代へ引き継ぐ: 財産だけでなく、親が人生で大切にしてきたこと、苦労話や成功体験から得た教訓、家族に対する願いなどを伝えることは、子どもたちにとって何よりの「心の財産」となります。これにより、世代を超えて家族の絆や価値観が受け継がれていきます。
言葉にできない想いを届ける具体的なヒント
直接言葉で伝えるのが難しい場合でも、想いを伝える方法はいくつかあります。ご自身に合った方法を試してみてはいかがでしょうか。
1. 手紙を書く
感謝の気持ち、家族への愛情、それぞれの財産にまつわる思い出、なぜこうした承継方法を選んだのかといった理由などを、手紙に託して書いてみましょう。かしこまった文章でなくても構いません。普段伝えられない素直な気持ちを、ご自身の文字で綴ることは、受け取る家族にとって、何よりも心に響く贈り物となるはずです。手紙は、遺言書と一緒に保管しても良いですし、元気なうちに節目ごとに渡すこともできます。
2. 写真や思い出の品にエピソードを添える
アルバムに残された写真や、大切にしてきた愛用品には、一つ一つに家族との思い出や、親御さんの人生が詰まっています。それぞれの写真や品にまつわるエピソード、それに込めた想いを短いメモとして添えたり、エンディングノートに書き記したりするのはいかがでしょうか。「この家具は、家族みんなで力を合わせて買った思い出の品なんだよ」「この写真は、あなたが小さかった頃に、初めて家族旅行に行った時のものだよ」など、具体的なエピソードを伝えることで、品物を見るたびに親御さんの想いを感じてもらえるでしょう。
3. エンディングノートや遺言書に「付言事項」として書き記す
エンディングノートや遺言書は、財産分与の希望などを記すだけでなく、家族へのメッセージを伝える場としても活用できます。特に遺言書における「付言事項」には、法的な効力はありませんが、遺言の内容を決めた理由や、家族への感謝の気持ち、これからの家族への願いなどを自由に記述できます。ご自身の最後のメッセージとして、家族への愛情を込めて綴ることは、遺された家族が遺言の内容を理解し、円満に手続きを進める大きな助けとなります。
4. 動画や音声を活用する
文字として残すだけでなく、スマートフォンなどでご自身のメッセージを動画や音声で録画・録音することも有効です。表情や声のトーンから、より直接的に想いが伝わります。照れくさいかもしれませんが、「見るのは自分がいなくなってからで良い」と伝え、メッセージを残しておくのも一つの方法です。
5. 専門家のサポートを得る
弁護士や司法書士、税理士といった専門家に資産承継の相談をする際に、単に手続きを依頼するだけでなく、「家族に自分の想いを伝えたいのだが、どうすれば良いか」と相談してみるのも良いでしょう。専門家は多くの家族の承継に関わってきており、想いを伝えることの重要性を理解しています。話し合いの場を設ける際のアドバイスをくれたり、遺言書の付言事項の書き方について助言をくれたりすることもあります。
想いを伝える上での大切な心構え
想いを伝えることは素晴らしいことですが、いくつかの心構えも大切です。
- 完璧を目指さない: 上手に話せなくても、完璧な文章でなくても構いません。大切なのは、「伝えよう」という気持ちそのものです。
- 一方的にならない: ご自身の想いを伝えるだけでなく、家族がどのように感じているのか、どんな考えを持っているのかにも耳を傾ける姿勢が大切です。双方向のコミュニケーションを心がけましょう。
- 一度に全てを伝えようとしない: 時間をかけて、少しずつ、繰り返し伝えていくことも有効です。日常のさりげない会話の中に、感謝や思い出話を織り交ぜることから始めても良いでしょう。
まとめにかえて
資産承継は、家族にとって人生の大きな節目です。この機会に、これまで言葉にできなかった家族への感謝や愛情、そしてご自身の人生観や価値観を伝えてみませんか。手紙、写真、エンディングノート、動画など、様々な方法があります。
親から子へ受け継がれるのは、資産だけではありません。共に過ごした時間、共有した思い出、そして何よりも、お互いを想い合う「心」です。あなたの温かい想いは、きっと家族の心に届き、これからも家族の絆を強く結びつけてくれるはずです。今日から、あなたらしい方法で、大切な想いを伝える準備を始めてみてはいかがでしょうか。