親から子へ。資産だけでなく、心の財産を伝える話し合いのすすめ
資産承継は「心」も引き継ぐ大切な機会
人生の節目を迎え、ご自身の資産を次世代にどう引き継ぐか、お考えになる方も多いかと存じます。資産を分けることは、時に複雑な手続きを伴い、ご家族の間で意見が分かれることもあります。過去に相続を経験され、その難しさを痛感された方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、資産承継は単に財産を移すことだけではありません。それは、ご自身の人生そのもの、大切にしてきた価値観、そして何よりもご家族への深い愛情や感謝の気持ちを、次の世代に伝えるかけがえのない機会でもあります。どうすれば、財産だけでなく「心の財産」も円満に引き継ぎ、ご家族の絆をより一層深めることができるのでしょうか。
元気なうちに、なぜ「話し合い」が大切なのか
資産承継について、ご自身が元気なうちに、主体的にご家族と話し合うことには、多くの利点があります。
まず、ご自身の率直な想いや考えを、直接、正確に伝えることができます。文書に残すことも有効ですが、言葉を交わすことで、その背景にある感情やニュアンスも伝わりやすくなります。
次に、ご家族、特に次世代の方々の現在の状況や考えを聞くことができます。将来の生活設計や、特定の財産に対するそれぞれの思いなど、お互いの状況を理解し合うことで、より現実的で、皆が納得しやすい形を見つけやすくなります。
また、早い段階で話し合うことは、将来起こりうる誤解や無用な争いを未然に防ぐことにつながります。疑問点があればその場で解消でき、不明瞭な点をなくすことができます。
そして何より、ご自身が元気なうちに話し合うことで、ご家族は「自分たちのために、親が真剣に考えてくれている」と感じ、安心感を得られます。ご家族にとっても、将来について共に考える良い機会となるのです。
どんなことを話し合えばよいのか
では、具体的にどのようなことを話し合えば良いのでしょうか。
まずは、ご自身の資産全体の状況について、大まかで構いませんので伝えてみてはいかがでしょうか。どのような資産がどれくらいあるのか、また負債の有無など、全体像を知ってもらうことが第一歩です。特定の財産、例えばご自宅や思い入れのある品などについて、それにまつわる思い出や、将来への希望を話すことも有効です。「この家で皆と過ごした時間が、私の一番の宝物だよ」「この品は、かつて祖父が大切にしていたものでね…」といった話は、単なるモノではない「心の財産」を伝えることになります。
次に、ご自身のこれまでの人生で大切にしてきた価値観や、ご家族に対する感謝の気持ち、そして「これから、家族にはこうあってほしい」といった願いを伝えてください。これは、法的な手続きでは決して伝えられない、最も大切な「心の承継」です。
最後に、もしもの時について、考えていることがあれば話しておくと安心です。延命治療についての希望、お葬式の形、お墓のことなど、デリケートな内容ですが、元気なうちに話しておくことで、いざという時にご家族が迷ったり、負担を感じたりすることを減らせます。
話し合いを進めるためのヒント
いざ話し合いを始めようと思っても、なかなか切り出しにくく感じるかもしれません。いくつかのヒントをお伝えします。
- タイミングと場所を選ぶ: 慌ただしい時ではなく、ご家族皆が比較的落ち着いて話せる時を選びましょう。自宅のリビングなど、リラックスできる場所が良いかもしれません。
- 重く考えすぎない: 一度で全てを解決しようとせず、まずは軽い気持ちで始めてみてください。「最近、今後のことを考えるようになったから、皆の考えも聞かせてもらえるかな」といったように、自然な形で切り出すのが良いでしょう。
- 一方的にならない: ご自身の考えを伝えるだけでなく、ご家族の意見や希望をじっくり聞く姿勢が大切です。一方的な通達ではなく、あくまで「話し合い」であることを忘れないでください。
- 全員が揃うのが難しければ: ご家族全員が一度に集まるのが難しければ、個別に話すことから始めても構いません。それぞれの考えを尊重し、少しずつ理解を深めていくことが重要です。
- 思い出話なども交える: 難しい話題だけでなく、ご家族との楽しい思い出や、ご自身の若い頃の話などを交えることで、和やかな雰囲気で話し合いを進めることができます。
- 専門家を交えることも検討する: 資産の内容が複雑な場合や、ご家族だけでの話し合いが難しいと感じる場合は、弁護士や税理士といった専門家にご相談することも有効です。専門家が間に入ることで、冷静に、かつ法的な観点も踏まえて話し合いを進めることができます。
話し合いは、未来への贈りもの
資産や将来について、ご家族と話し合うことは、決して簡単なことではないかもしれません。しかし、それはご家族への深い愛情と、「これからも皆で力を合わせて幸せに暮らしてほしい」という願いを形にする、未来への贈りものです。
一度の話し合いで全てが決まるわけではありません。時間をかけて、折に触れて話し合うことが大切です。この話し合いの機会を通じて、ご家族の絆がより一層深まることを願っております。ご自身の想いを伝える一歩を踏み出すことで、ご家族と共に、安心した未来を築いていくことができるでしょう。