未来への安心を家族と共に。任意後見制度が叶える、自分らしい生き方と円満な承継
将来への不安を安心に変える準備
人生の節目を迎え、これからのこと、そしてご家族のことについてお考えになる時間が増えている方もいらっしゃるかと存じます。特に、もしもご自身の判断能力が不十分になったら、という将来への漠然とした不安や、その際に大切なご家族に負担をかけたくないというお気持ちは、多くの方が抱かれているものでしょう。
これまで大切に育んでこられたご家族との絆や、人生で培われてきた価値観、そしてご自身の想いを、将来にわたって守り、ご家族へ穏やかに引き継いでいくためには、元気なうちからの準備が大切になります。今回は、その準備の一つとして、「任意後見制度」がどのようにご家族の安心と円満な承継に繋がるのか、お話しいたします。
任意後見制度とは
任意後見制度とは、ご自身がまだ判断能力のあるうちに、将来、判断能力が不十分になった場合に、ご自身の生活、療養看護、財産管理に関する事務を、信頼できる方に任せるための契約(任意後見契約)を結んでおく制度です。この契約によって、ご自身の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が選任する任意後見監督人のもと、契約で定めた内容に従い、選んでおいた方(任意後見人)がご自身のために活動してくれます。
似た制度に「法定後見制度」がありますが、これは判断能力が不十分になった後に家庭裁判所が後見人等を選任する制度です。任意後見制度の大きな特長は、ご自身で将来の支援者(任意後見人)を選び、どのような支援をしてもらうか(後見事務の内容)を、ご自身の意思で決められる点にあります。これは、ご自身の人生観や価値観を将来にわたって反映させるための重要な手段と言えるでしょう。
任意後見制度が家族の絆と円満な承継に繋がる理由
任意後見制度を活用することが、単にご自身の財産を守るだけでなく、ご家族の安心や将来の円満な承継に繋がるのには、いくつかの理由があります。
1. 将来の不安を軽減し、家族の負担を和らげる
ご自身の判断能力が不十分になった場合、預金の引き出しや介護・医療に関する契約など、様々な手続きが必要になります。適切な準備がない場合、ご家族が後見制度の利用(法定後見制度など)を申し立てる必要が生じたり、手続きに手間取ったりする可能性があります。また、ご家族間で誰が手続きを行うか、どのように財産を管理するかなどで意見が分かれてしまうことも考えられます。
任意後見制度を契約しておくことで、将来、ご自身が選んだ任意後見人が、あらかじめ定めた内容に従ってこれらの事務を代行してくれます。これにより、ご家族は煩雑な手続きから解放され、安心してご本人をサポートすることに集中できます。これは、ご家族にとって大きな精神的な負担軽減となります。
2. ご自身の意思や価値観を将来にわたって守る
任意後見契約では、どのような後見事務を依頼するかを具体的に定めることができます。例えば、どのような施設に入りたいか、どのような医療や介護を受けたいか、といったご自身の希望を契約内容に盛り込むことが可能です。これにより、将来判断能力が不十分になっても、ご自身の意思や大切にしたい価値観に基づいた生活を送ることができます。
ご自身の明確な意思が示されていることは、ご家族が将来の判断で迷うことを減らし、ご本人の希望を尊重するための助けとなります。これは、ご本人の尊厳を守るだけでなく、ご家族間の無用な対立を防ぎ、絆を守ることに繋がります。
3. 家族との話し合いのきっかけとなる
任意後見契約を結ぶプロセスで、ご家族に将来の希望や任意後見制度を利用したい理由を伝える機会が生まれます。ご自身の人生観や、将来どのように過ごしたいか、そしてご家族への想いを言葉にすることで、ご家族は改めてご本人のことを深く理解することができます。
このような話し合いは、ご家族にとって将来について共に考える貴重な時間となります。単なる事務手続きの話に留まらず、お互いの想いや価値観を共有することで、より一層家族の絆を深めるきっかけとなるでしょう。このプロセスで育まれた信頼関係は、その後の資産承継に関する話し合いも円滑に進めるための土台となります。
4. 資産承継の準備にも繋がる可能性
任意後見契約で財産管理に関する事務を定めておくことで、将来の資産承継を見据えた財産管理を行うことが可能になります。もちろん、任意後見制度は相続そのものを実現する制度ではありませんが、ご自身の財産状態を整理し、適切に管理していくことは、その後の円満な資産承継にとって重要なステップです。
例えば、賃貸不動産の管理や、資産の適切な運用を後見事務に含めることで、将来、ご家族が相続手続きを行う際の負担を軽減できる場合があります。
任意後見制度を始めるためのヒント
任意後見制度の利用を検討される際は、いくつかの点について考えてみましょう。
- 誰を任意後見人にするか: ご自身の財産管理や身上監護を任せるにふさわしい、信頼できる方を選びます。ご家族に依頼することも可能ですが、ご家族に負担をかけたくない場合や、より専門的な管理を望む場合は、弁護士や司法書士といった専門家にお願いすることもできます。ご家族を後見人とする場合でも、専門家に任意後見監督人となってもらうことで、適正な後見事務が期待できます。
- どのような事務を依頼するか: 財産管理の範囲(どの財産をどのように管理するか)、身上監護の内容(どのような医療や介護を希望するか、施設入居の希望など)を具体的に定めます。ご自身の「こう生きたい」という希望を、遠慮なく伝えられるように整理することが大切です。
- いつ始めるか: 任意後見契約は、ご自身の判断能力が十分にあるうちに締結する必要があります。将来の不安を感じ始めた今こそが、検討を始める良い機会かもしれません。
これらの検討は、ご家族と話し合いながら進めることが理想的です。もし、ご家族との話し合いが難しいと感じる場合は、任意後見制度に詳しい専門家にご相談されてみることをお勧めいたします。専門家は、制度の説明だけでなく、ご自身の状況やご家族との関係性を踏まえ、最適な方法を共に考えてくれるでしょう。
まとめにかえて
任意後見制度は、単なる法的な手続きではありません。それは、ご自身の人生の最期まで「自分らしくありたい」という願いを叶え、そして大切なご家族に将来の安心を贈るための、深く温かい準備と言えるでしょう。
元気なうちに将来の希望を形にし、ご家族と想いを分かち合う時間を持つことは、何よりも価値のある「心の財産」となります。任意後見制度の検討を、未来への安心と、ご家族との絆を一層深めるための一歩として踏み出されてはいかがでしょうか。