資産だけじゃない。愛用品に込めた想いを家族へ伝えるヒント
資産承継を考える今、あなたの「愛用品」に宿る想いを
人生の節目を迎え、資産承継について考え始める方も多いのではないでしょうか。お子様たちが将来困らないように、そしてご家族の間で争い事が起きないようにと、現金や不動産などの資産について準備を進めることは、とても大切なことです。
しかし、資産の承継は、お金や不動産を分けることだけではありません。長い年月を共にしてきた家具、大切に使ってきた道具、旅行先で見つけた小物、そしてご自身の人生を物語るかのような様々な「愛用品」。これらの品々一つひとつにも、あなたの暮らしの記憶や、込められた想いがあるはずです。
これらの「もの」が、もしあなたの想いを知らないままお子様に引き継がれたら、どうなるでしょうか。価値が分からないと簡単に処分されてしまったり、逆に兄弟間で「あの品が欲しい」「いらない」と意見が分かれてしまったりするかもしれません。それは、あなたが大切にしてきた時間が、十分な敬意をもって扱われなかったように感じられるかもしれません。
なぜ、「もの」の承継が大切なのか
物理的な「もの」は、単なる所有物以上の意味を持つことがあります。それは、特定の時期の思い出を呼び起こすトリガーであったり、あなたの価値観や人生哲学を体現していたりします。例えば、手作りの家具は、DIYが好きだった親の根気強さや工夫を伝えるかもしれません。古い手帳は、目標に向かって努力した道のりを示すかもしれません。
これらの目に見えない価値、すなわち「想い」や「価値観」を一緒に引き継ぐことこそが、本当の意味での豊かな承継と言えるでしょう。それは、単に物を渡すのではなく、あなたが大切にしてきた家族の歴史や、品々にまつわるエピソードを通じて、家族の絆を深める機会ともなり得ます。
過去の相続で、形見分けの際に家族間で意見が合わず、寂しい思いをしたという話を耳にすることもあります。「誰がどの品を受け取るか」という表面的な問題の裏には、「親が自分にかけてくれた愛情はどれくらいだったのか」「自分のことをどう思っていたのか」といった、見えない感情が隠れている場合があるのです。
だからこそ、資産だけでなく、あなたの「愛用品」に込めた想いを、元気なうちに家族に伝えることが大切なのです。
愛用品に込めた想いを伝える具体的なヒント
では、具体的にどのようにして、あなたの愛用品とそれにまつわる想いを次の世代に伝えていけば良いのでしょうか。いくつかの方法をご紹介します。
1. 愛用品のリストアップと整理を始める
まずは、ご自宅にある物の中から、特に思い入れのある品や、家族に引き継ぎたいと思う品をリストアップしてみましょう。
- 写真と一緒に記録する: 品物の写真を撮り、それが何で、いつ頃手に入れたものか、どんな思い出があるのかなどを簡単に書き添えます。
- 「なぜ大切なのか」を考える: その品があなたにとってなぜ特別なのか、どんなエピソードがあるのかを深掘りして考えてみましょう。それは、単なる物の情報だけでなく、あなたの価値観そのものを映し出す鏡となるはずです。
- 不要なものの整理も並行して: 想いの詰まった品を区別するためにも、この機会に不要なものを整理するのも良い方法です。
2. 品物にまつわる「物語」を書き残す
リストアップした愛用品について、さらに具体的な想いやエピソードを書き残しましょう。これは、エンディングノートの一項目として設けることもできますし、別のノートやファイルにまとめることも可能です。
- 誰に引き継ぎたいか、その理由は?: もし、特定の家族に受け取ってほしい品があるなら、なぜその人に渡したいのか、その理由を記します。「あなたが生まれた年に買ったものだから」「あなたがこの品を気に入ってくれていたから」など、具体的な理由があると、受け取る側はその品に対するあなたの愛情を感じやすくなります。
- 品物にまつわる具体的なエピソード: その品を使った時の楽しかった思い出、苦労した経験、学んだことなど、具体的な物語を書きましょう。物語は、単なる物の情報よりも人の心に響きます。
- 感謝の気持ちを添える: 品物を託す家族への感謝の気持ちや、今後の幸せを願うメッセージを添えることも、あなたの想いをより深く伝えることに繋がります。
3. 家族とコミュニケーションを取る機会を持つ
最も大切なのは、ご家族と直接話をすることです。一方的にあなたの希望を伝えるだけでなく、ご家族があなたの品々を見てどう感じるか、何か思い出の品はあるかなどを聞いてみるのも良いでしょう。
- 気軽に話せる機会を作る: 食事中やリラックスした時間に、昔の写真を見ながら思い出の品の話をするなど、かしこまらずに自然な流れで話せる機会を持ちましょう。
- あなたの想いを伝える勇気: 「この品にはこんな思い出があってね」「これを大切にしてくれると嬉しいな」など、素直な気持ちを伝えてみましょう。最初はお子様も戸惑うかもしれませんが、あなたの真剣な想いはきっと伝わります。
- 家族の気持ちに耳を傾ける: 家族があなたの品についてどう思っているか、どんな思い出があるかを聞くことも重要です。家族それぞれにとって、同じ品でも違う思い出があるかもしれません。互いの気持ちを知ることで、より円満な承継に繋がります。
「もの」の承継は、家族の歴史を未来へ繋ぐこと
愛用品の整理や想いを伝える作業は、時間と労力がかかるかもしれません。しかし、これは単なる「片付け」ではなく、あなたが歩んできた人生を振り返り、そこに彩りを添えてくれた品々を通じて、ご家族との絆を再確認し、次の世代へ大切なバトンを渡すための尊い機会です。
あなたの愛用品一つひとつには、お金では買えない価値、すなわち「想い」や「価値観」が宿っています。それらを丁寧に家族に伝えることで、物理的な資産だけでなく、家族の歴史、そしてあなたの温かい愛情も、確かに未来へと引き継がれていくことでしょう。
専門家に相談することも、整理や評価、スムーズな引き渡しのために役立つ場合があります。しかし、その「もの」に宿るあなたの想いを伝えられるのは、あなただけです。
ぜひ、今日から一歩踏み出して、あなたの愛用品に込めた大切な想いを、ご家族へ伝えてみてはいかがでしょうか。それが、世代を超えて受け継がれる、何より豊かな資産となるはずです。