世代を超える資産の智慧

後悔しない資産承継のために。元気なうちに始める「伝える準備」

Tags: 資産承継, 事前準備, 家族の絆, コミュニケーション, エンディングノート

なぜ、元気なうちから資産承継の準備を始めることが大切なのか

資産承継は、いつか誰もが向き合うテーマです。しかし、その準備となると、つい先延ばしにしてしまいがちかもしれません。特にご自身の心身が元気なうちは、「まだ早い」「そのうち考えよう」と思われる方もいらっしゃるでしょう。

ですが、資産承継をスムーズに進め、何よりもご家族の皆様が後々困ったり、気持ちがすれ違ったりすることなく、円満に手続きを終えるためには、元気なうちから少しずつ準備を進めておくことが非常に大切なのです。

準備には、財産を整理したり、法的な手続きについて調べたりすることだけでなく、ご自身の人生で大切にしてきたこと、ご家族への想い、そして「ありがとう」の気持ちを伝えることも含まれます。私たちはこれを「伝える準備」と呼んでいます。

この「伝える準備」を元気なうちに行うことで、ご自身の意思や希望を明確に伝えることができます。また、ご家族とじっくり話し合う時間を持つことで、お互いの理解を深め、将来起こりうるかもしれない無用な争いを避けることにつながるのです。

「伝える準備」で、未来のご家族へ贈る安心と絆

過去に、ご親族の相続でご家族が揉めてしまったという経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。そうした経験から、「自分の時は、子供たちに同じような思いをさせたくない」「仲良く手続きを進めてほしい」と強く願われている方もおられるでしょう。

そのためにできることこそが、「伝える準備」です。この準備は、未来のご家族への何よりの贈り物となります。単に物を分け与えるだけでなく、ご自身の人生から学び取った知恵や、家族への深い愛情、そして大切にしてきた価値観を、形として、そして心として引き継ぐ機会となるからです。

では、「伝える準備」とは具体的にどのようなことから始めれば良いのでしょうか。いくつか具体的なステップをご紹介します。

1. 財産や大切なものの全体像を整理する

まずは、ご自身の財産がどこに、どのような形でどれくらいあるのか、全体像を把握することから始めましょう。預貯金、不動産、有価証券などの金融資産だけでなく、ご自宅にある大切な品々、思い出の品なども含めて、大まかにリスト化してみるのも良いでしょう。

この時、単に物の名前を列挙するだけでなく、「この写真は〇〇へ家族旅行に行った時のもので、皆が本当に楽しそうでね」「この茶碗は、私が若い頃に苦労して手に入れた思い出の品なんだ」といった、それぞれの物にまつわるエピソードや、なぜそれがご自身にとって大切なのかという「想い」も一緒に書き添えておくことをお勧めします。これにより、受け取る側は単なる「物」としてではなく、そこに込められた人生の物語と共に受け止めることができるようになります。

2. ご自身の「想い」を言葉にする、形にする

ご家族への感謝の気持ち、それぞれの子供たちへの期待、人生で大切にしてきた価値観、そしてご自身の人生の終末期や葬儀、お墓に対する希望など、ご自身の心の中にある様々な「想い」を言葉にしてみましょう。

形式ばったものである必要はありません。ノートに書き出す、パソコンで文章を打つ、ボイスレコーダーに吹き込むなど、ご自身がやりやすい方法で構いません。最近では「エンディングノート」と呼ばれる、ご自身の情報を整理し、家族へのメッセージを書き残せるものが書店などで手軽に入手できます。こうしたものを活用するのも良い方法です。

また、法的な効力を持たせたい内容(例えば、誰にどの財産を渡したいか、など)については、遺言書を作成することも検討しましょう。遺言書には法的な形式が決まっていますが、財産の分け方だけでなく、付言事項としてご家族へのメッセージを自由に書き加えることができます。ここに、ご自身の想いや遺言に至った理由などを記すことで、法的な効力以上に、ご家族の心に響くメッセージを伝えることができるのです。

3. ご家族と「対話」する機会を作る

資産承継やご自身の将来について、ご家族と話し合うことは、多くの方にとって勇気がいることかもしれません。しかし、この「対話」こそが、円満な承継のために最も重要であると言っても過言ではありません。

一方的にご自身の考えを伝えるだけでなく、ご家族がどのような状況にあり、どのような考えを持っているのか、耳を傾ける姿勢を持つことが大切です。もしかしたら、ご自身が考えていることと、ご家族が想定していることに違いがあるかもしれません。そうした違いを早期に把握し、お互いの理解を深めることで、将来的な誤解やすれ違いを防ぐことができます。

改まって家族会議を開くことに抵抗がある場合は、日々の何気ない会話の中で、少しずつ話題にしてみることから始めても良いでしょう。「この家には色々な思い出があるけど、将来はどうなるのかしらね」「〇〇さんが相続で少し大変だったみたいだけど、うちは大丈夫かしら」など、まずは軽い問いかけから入ってみるのも一つの方法です。

重要なのは、一度にすべてを解決しようとしないことです。時間をかけて、お互いの気持ちに寄り添いながら、根気強く対話を続けていくことが、家族の絆をより一層深めることにつながります。

4. 必要に応じて専門家の力を借りる

法務や税務に関わる複雑な内容については、ご自身だけで抱え込まず、専門家(弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーなど)に相談することも検討しましょう。専門家は、正確な情報を提供し、法的に有効な手続きを進めるためのサポートをしてくれます。

専門家へ相談する際にも、「家族が仲良く、円満に承継を進めたい」「財産だけでなく、自分の想いもしっかり伝えたい」といった、ご自身の希望や家族への想いを伝えてみてください。専門家は、そうしたご相談者様の意向を汲み取りながら、最適なアドバイスやサポートを提供してくれるはずです。

「伝える準備」は、未来への希望を育む一歩

元気なうちから「伝える準備」を始めることは、未来への不安を解消し、ご自身もご家族も安心してその時を迎えられるための大切な一歩です。それは決して、人生の終わりを意識することだけを意味するものではありません。むしろ、これまでの人生を振り返り、ご家族との絆を再確認し、未来へ託す希望を具体的に思い描く、前向きな取り組みと言えるでしょう。

完璧を目指す必要はありません。まずは、できることから、ご自身のペースで始めてみてください。財産リストを一つ作成すること、ご家族へのメッセージを短い手紙に書いてみること、お子様の一人と少し長く話してみること。その小さな一歩が、きっとご自身とご家族の未来を温かく照らしてくれるはずです。

ご家族の皆様が、世代を超えて心を通わせ、共に支え合いながら歩んでいかれることを心より願っております。