世代を超えて心を通わす。親の人生を子どもに伝えるということ
資産承継のその先に ～ 人生の歩みを伝える大切さ
資産を次の世代に引き継ぐことをお考えになる時、財産の整理や手続きについて考えることがまず思い浮かぶかもしれません。しかし、この大切な節目は、単に物を移動させる機会としてだけでなく、ご自身の人生そのもの、歩んできた道のりを振り返り、それを子どもたちに伝える貴重な機会でもあります。
私たちは皆、それぞれの時代を生き、様々な経験を積み重ねてきました。そこには、喜びや成功もあれば、苦労や葛藤、そしてそれを乗り越えた知恵や学びがあるはずです。これらの「人生の物語」こそが、形ある資産と同じくらい、あるいはそれ以上に、子どもたちにとって大切な「心の財産」となり得ます。
なぜ今、ご自身の人生の歩みを子どもたちに伝えることが大切なのでしょうか。それは、親の人生を知ることで、子どもたちは親の人となりや価値観をより深く理解することができるからです。親が何を大切にし、どのように考え、生きてきたのかを知ることは、子どもたちが自身のルーツやアイデンティティを確かめる助けにもなります。
親の人生を伝えることで育まれるもの
ご自身の人生の物語を語ることは、単に過去を振り返るだけではありません。それは、現在の子どもたちとの関係性を深め、未来の家族のあり方を築くための土台となります。
例えば、親が若い頃に経験した苦労話を聞くことで、子どもは親の頑張りや知恵を学び、尊敬の念を抱くかもしれません。また、親がどのような価値観を大切にしてきたのかを知ることで、子どもはその価値観の一部を受け継ぎ、自身の生き方の参考にするかもしれません。
このような相互理解は、資産承継の話し合いを円満に進める上でも大きな力となります。親の想いや考えを理解している子どもたちは、単に資産を分けるという行為だけでなく、そこに込められた親の意図や願いを汲み取りやすくなるからです。結果として、家族間の不要な誤解や争いを避けることにも繋がります。
具体的な伝え方のヒント
では、どのようにご自身の人生を子どもたちに伝えたら良いのでしょうか。特別な準備は必要ありません。まずはできることから始めてみましょう。
- 思い出話をする: 家族で集まった時や、子どもと二人で話す時間がある時に、若い頃の出来事や、ターニングポイントとなった経験、大切にしてきたことについて話してみてください。写真や古い手紙、思い出の品などを手に取って話すと、より具体的に伝わります。
- 簡単な年表やメモを作る: 生まれた年からの出来事や、家族の歴史、仕事のこと、趣味のことなど、簡単な箇条書きや年表形式で書き出してみるのも良いでしょう。それを基に話をしたり、見せたりするだけでも十分伝わります。
- 短い文章にまとめてみる: 全てを網羅する必要はありません。特に子どもたちに伝えたい「大切なこと」や「教訓」、「感謝の気持ち」などを短い文章にまとめてみるのも有効です。エンディングノートの一部として記述するのも一つの方法です。
大切なのは、一方的に「聞かせよう」とするのではなく、リラックスした雰囲気で、語りかけるように話すことです。子どもからの質問があれば、丁寧に答えてみてください。話す内容に詰まったり、完璧に思い出せなかったりしても大丈夫です。正直な気持ちや、その時の感情を共有することが何よりも大切です。
まとめ ～ 人生の物語は家族の宝
資産承継は、ご自身の人生の集大成ともいえる大切なプロセスです。その中で、形ある資産だけでなく、ご自身の歩んできた人生の物語を子どもたちに伝える時間は、家族の絆をさらに深め、世代を超えた理解を育むかけがえのない機会となります。
語られた人生の物語は、子どもたちにとって、そしてその次の世代にとっても、迷った時の指針となり、困難に立ち向かう勇気を与える、何物にも代えがたい宝物となるでしょう。まずは身近な思い出話から、少しずつ始めてみてはいかがでしょうか。