資産承継を円満に。家族の信頼関係を育むために大切なこと
資産承継を考える時期に、家族の絆を見つめ直す
人生の節目を迎え、ご自身のこれまで築き上げてこられた資産を次の世代に引き継ぐことをお考えになる方もいらっしゃるでしょう。資産承継は、単に財産をどう分けるかという法的な手続きだけではありません。それは、ご自身の人生観や家族への想い、大切にしてこられた価値観を子どもたちに伝え、世代を超えて家族の絆を深めるかけがえのない機会でもあります。
過去にご親族の相続を経験され、その際に家族間で意見の対立や気持ちのすれ違いがあったという方もいらっしゃるかもしれません。そのような経験があるからこそ、ご自身の資産承継においては、子どもたちが仲良く、家族が円満であることを心から願われていることと思います。
円満な資産承継を実現するために、法律や手続きの知識も確かに重要です。しかし、それ以上に大切な土台となるものがあります。それは、ご家族の間の「信頼関係」です。
なぜ、家族の信頼関係が資産承継に不可欠なのか
資産承継の手続きを進める上で、ご自身の考えや希望を家族に伝えたり、家族の意見を聞いたりする場面が必ず出てきます。遺産分割の方法、実家をどうするか、といった具体的な話し合いはもちろんのこと、ご自身の想いを綴ったメッセージなどを受け取ったご家族が、その真意を理解し、受け止めてくれるかどうかも、日頃からの関係性が大きく影響します。
もし家族間の信頼関係が揺らいでいると、些細なことから感情的な対立に発展したり、お互いの真意を疑ってしまったりする可能性があります。残念ながら、資産承継がきっかけで家族が離れ離れになってしまうケースも耳にします。
一方で、家族の間にしっかりとした信頼関係があればどうでしょう。たとえ意見が異なっても、お互いを尊重し、歩み寄る姿勢が生まれやすくなります。話し合いも建設的に進み、「お父さん、お母さんは、こういう考えだったんだね」「〇〇については、こうしていこうか」と、協力して手続きを進めることができるようになります。ご自身の「家族が仲良くあってほしい」という願いも、より実現しやすくなるのです。
資産承継は、いわば家族の未来を共に考える共同作業です。その過程を円滑に進め、ご自身の想いを確かに引き継いでもらうためには、確固たる信頼関係が何よりも力となります。
家族の信頼関係を育むために、今からできること
では、家族の信頼関係を育むために、私たちはどのようなことができるのでしょうか。特別なことばかりではありません。日々の生活の中での小さな積み重ねが、やがて大きな信頼という絆になります。
1. 日常のささやかなコミュニケーションを大切にする
改まって資産の話をする前に、まずは普段からの何気ないコミュニケーションを大切にしましょう。「おはよう」「ありがとう」「お疲れ様」といった日々の挨拶や感謝の言葉は、お互いの存在を認め、尊重する気持ちを伝える基本です。体調を気遣ったり、子どもの仕事や家庭のことに関心を持ったりすることも、相手への関心と愛情を示す行為です。LINEなどのツールが使える場合は、無理のない範囲で活用してみるのも良いでしょう。
2. 家族の話に耳を傾ける姿勢を持つ
自分の考えを伝えることと同じくらい、あるいはそれ以上に大切なのが、家族の話を「聴く」ことです。子どもたちの近況、悩み、意見に耳を傾けましょう。たとえ自分とは異なる意見であっても、まずは最後まで聞き、なぜそう考えるのかを理解しようと努める姿勢が、相手に「自分の話を真剣に聞いてくれている」という安心感を与えます。相手の言葉を途中で遮ったり、自分の意見を一方的に押し付けたりしないよう心がけましょう。
3. 自分の気持ちや考えを誠実に伝える
日頃から、自分の感じていることや考えていることを、オープンに、そして誠実に家族に伝えてみましょう。資産承継について話し合う前に、例えば「最近、今後のことを考える時間が増えた」とか、「家族みんなが健康でいてくれることが一番嬉しい」といった、素直な気持ちを伝えてみることから始めることができます。自分の内面を少しずつ開示することで、家族もまた安心して自分の気持ちを話してくれるようになります。
4. 共通の時間を持つ機会を作る
共に食事をしたり、一緒に外出したり、趣味を共有したりする時間は、家族の絆を深める貴重な機会です。特別な会話がなくても、同じ空間で時間を過ごすことで、安心感が生まれ、自然な形でコミュニケーションが生まれることもあります。難しい場合は、電話で話す時間を設けるだけでも良いでしょう。
5. 過去の出来事についても、必要なら向き合う
もし過去の相続などで家族間にわだかまりが残っている場合は、すぐに解決しようと焦る必要はありません。しかし、そのわだかまりが存在することを認識し、必要であれば、穏やかな口調で当時のことや今の気持ちについて話してみることも、信頼関係を修復するための一歩となることがあります。必ずしも相手に理解を求める必要はなく、「自分はこう感じていた」と伝えるだけでも、お互いの気持ちを整理することに繋がります。難しい場合は、第三者（専門家など）の立ち会いをお願いすることも考えられます。
信頼関係は、円満な承継の何よりの財産
資産承継は、ご家族にとって大きなライフイベントです。法的な手続きはもちろん必要ですが、それ以上に、ご家族が心を通わせ、お互いを思いやる気持ちが問われる機会でもあります。
家族の信頼関係は、一朝一夕に築けるものではありません。日々の小さなコミュニケーション、相手への敬意、自分の気持ちを伝える勇気、そして何よりも、家族を大切に思う気持ちが、少しずつその絆を強くしていきます。
もし、これまでの家族関係に不安を感じているとしても、今からでも遅くはありません。できることから、一つずつ始めてみましょう。あなたが家族を大切に思う気持ちは、きっとご家族にも伝わるはずです。
資産だけでなく、世代を超えて受け継がれる「家族の信頼」という見えない財産こそが、何よりも価値のあるものなのかもしれません。この機会に、ご自身の家族との向き合い方を見つめ直し、より豊かな絆を育んでいくことを願っております。