円満な資産承継のために。家族の隠れた「強み」と「想い」を再発見する時間
はじめに
資産承継と聞くと、財産をどのように分けるかという法的な手続きや税金のことばかりを考えてしまいがちです。もちろん、それらは大切な側面ですが、承継の準備は、同時に家族が互いを深く理解し、絆を深める貴重な機会でもあります。
これまでのご自身の人生の中で、もしかしたらご家族の相続を経験され、その際に家族の間で話し合いが難しかったり、想いがうまく伝わらなかったりといった課題を感じられた方もいらっしゃるかもしれません。だからこそ、ご自身の承継においては、お子様たちが仲良く、家族の繋がりを大切にしてくれることを強く願っておられるのではないでしょうか。
本日は、資産承継の準備を進める中で、ご家族一人ひとりが持つ隠れた「強み」や、胸に秘めた「想い」をどのように再発見し、それが円満な承継にどう繋がるのかについてお話しさせていただきます。
資産承継は家族の「強み」と「想い」を知る機会
資産承継のプロセスは、単に物質的なものを次の世代に引き継ぐだけでなく、家族の歴史、思い出、そして一人ひとりの個性や価値観が交差する時間です。この機会に意識的に目を向けていただきたいのが、ご家族の「強み」と「想い」です。
ご自身のお子様や、その先の世代のご家族が、どのようなことに興味があり、どんな才能やスキルを持っているか、そして将来についてどのような希望や考えを持っているか。日頃はあまり深く話す機会がないかもしれませんが、承継という共通のテーマがあるからこそ、自然な形でこれらの話題に触れることができる場合があります。
例えば、どのお子様が数字に強いか、整理整頓が得意か、人とのコミュニケーションを円滑に進めるのがうまいか、古いものや歴史に関心があるかなど、それぞれの持つ得意なことや関心事は、承継の準備や実際の手続きの場面で大きな助けとなり得ます。また、特定の資産(例えば先祖代々受け継がれてきた不動産や、ご自身が集めてきたコレクションなど)に対する思い入れや、それを今後どうしたいかといった「想い」を共有することは、誤解を防ぎ、家族間の共感を育む上で非常に重要です。
家族の「強み」と「想い」を再発見するためのヒント
では、どのようにすれば、ご家族の隠れた「強み」や「想い」を引き出し、理解を深めることができるのでしょうか。いくつか具体的なヒントをご紹介します。
1. まずはご自身の「想い」を整理する
ご家族の「強み」や「想い」を知る前に、まずご自身がどのような承継を望んでいるのか、なぜそのように考えているのか、特定の資産にどのような思い出や願いを込めているのかといった「想い」を整理してみましょう。ご自身の心の内を言葉にしてみることで、家族との対話の糸口が見つかりやすくなります。エンディングノートや遺言書を作成するプロセスは、この自己理解を深める良い機会となります。
2. 堅苦しくない雰囲気で対話の場を作る
「資産承継について話したい」と改めて切り出すと、お子様たちは身構えてしまうかもしれません。まずは、食事を共にしたり、思い出の場所を訪れたりする中で、世間話や昔話をするような自然な雰囲気を作ることから始めてみてはいかがでしょうか。その中で、ご家族が最近興味を持っていることや、仕事・プライベートでどんなことに打ち込んでいるかなどを尋ねてみましょう。意外な一面や隠れた才能が見つかるかもしれません。
3. 資産にまつわるエピソードを共有する
特定の資産について話す際に、単に「これは誰に」と決めるだけでなく、その資産にまつわる思い出や、取得・維持するためにご自身がどのような苦労や工夫をしてきたかといったエピソードを語ってみましょう。例えば、ご自宅の庭の手入れにご自身がどれだけ情熱を注いできたか、古い掛け軸に込められた歴史的背景など、具体的な話を通じて、ご家族の共感を呼び、「それなら、私が手伝いたい」「〇〇についてもっと知りたい」といった自発的な「想い」や「強み」の発露に繋がることがあります。
4. 家族それぞれの「興味」や「得意」と承継を結びつけて考える
ご家族との対話を通じて見えてきたそれぞれの「興味」や「得意」なことを、資産承継のプロセスや、引き継がれる資産の管理・活用と結びつけて考えてみましょう。例えば、パソコンが得意な方にはデジタル遺品の整理や情報管理を、整理整頓が得意な方には実家にある物の整理を、歴史に関心のある方には古い写真や家系図の整理をお願いするなど、それぞれの「強み」を活かせる役割をお願いすることで、家族は受け身ではなく、主体的に承継に関わることができます。これは、責任感を育むと同時に、貢献しているという実感をもたらし、家族間の協力関係を築く上で非常に効果的です。
5. 専門家の知恵も借りる
家族だけで話し合うのが難しい場合や、資産の内容が複雑な場合は、弁護士、税理士、司法書士、ファイナンシャルプランナーといった専門家のサポートを借りることを検討しましょう。専門家は法務や税務の知識だけでなく、家族間の話し合いを円滑に進めるためのファシリテーションの経験を持っている場合もあります。ご家族の「強み」や「想い」を踏まえた上で、専門家と協力して最適な承継の方法を探ることも有効です。
まとめ
資産承継の準備は、時に難しく感じられるかもしれませんが、それは同時に、ご家族が互いを深く理解し、それぞれが持つ「強み」や「想い」を再発見する貴重な時間でもあります。手続きを進めることと並行して、家族一人ひとりの個性や内面に目を向け、丁寧にコミュニケーションを重ねることで、形式的な承継だけではなく、温かい心の繋がり、そして家族の絆というかけがえのない財産を次の世代に引き継ぐことができるはずです。
ご自身の人生の集大成ともいえる資産承継を、ご家族がそれぞれの持ち味を活かし、互いを思いやりながら協力し合うプロセスにすることは、何よりの願いではないでしょうか。ぜひ、今日から少しずつ、ご家族との対話を始めてみてください。そこから生まれる理解と共感が、きっと円満な未来へと繋がっていくことでしょう。