資産承継を機に伝える。家族の歴史を紐解き、ルーツを知る旅へ
資産承継は、家族の過去と未来をつなぐ機会です
資産承継は、単に財産を次の世代に引き継ぐという手続きにとどまりません。それは、これまで築き上げてきたご自身の人生や、家族が共に歩んできた歴史、そして大切にしてきた価値観を、改めて振り返り、未来へと受け渡す尊い機会です。
特に、人生の節目を迎え、資産承継について考え始めたとき、多くの人が「子供たちがこの先も仲良くいてほしい」「自分の人生で大切にしてきたことを伝えておきたい」といった願いを強く抱くのではないでしょうか。過去の相続で家族間に難しさが生じた経験がある方であれば、なおさら、ご自身の承継においては、家族の絆を何よりも大切にしたいと感じていることでしょう。
そのためにできることの一つに、「家族の歴史やルーツ」を次の世代に伝えるということがあります。これは、資産そのものとは直接関係ないように思えるかもしれませんが、実は円満な承継を実現し、家族の絆を深める上で、非常に大切な意味を持つのです。
なぜ、家族の歴史やルーツを伝えることが大切なのでしょうか
私たちは皆、過去から現在へと続く家族の繋がりの中に生きています。自分が何者であるのか、なぜ今の自分があるのかを知る上で、家族の歴史やルーツは欠かせない要素です。
子供たちや孫たちにとって、自分たちの家族がどのように始まり、どのような道のりを経て今があるのかを知ることは、自分自身のアイデンティティを育む上で大切な根っことなります。祖父母やそれ以前の世代が、どのような時代に生き、どのような苦労を乗り越え、何を大切にしてきたのかを知ることで、自分たちが今あることへの感謝の気持ちが芽生えたり、困難に立ち向かう勇気を得たりすることもあるでしょう。
また、家や土地などの資産も、単なるモノではなく、家族の歴史の中で築かれ、守られてきたものです。その背景にある物語を伝えることで、受け継ぐ側はその資産に込められた想いや価値をより深く理解し、大切にしようという気持ちになるかもしれません。これは、資産を巡る話し合いを円滑に進める上でも、静かながら確かな影響を与える可能性があります。
家族の歴史やルーツを共有することは、世代間の心の壁を取り払い、お互いをより深く理解し合うきっかけとなります。それは、まさに「世代を超える資産の智慧」の本質とも言えるのではないでしょうか。
家族の歴史やルーツを伝えるためのヒント
では、具体的にどのように家族の歴史やルーツを伝えていけば良いのでしょうか。難しく考える必要はありません。できることから少しずつ始めてみましょう。
1. 手元にある「もの」から始める
古いアルバム、手紙、日記、旅行のパンフレット、代々使われてきた食器や道具など、ご自宅には家族の歴史を物語る「もの」がたくさんあるはずです。これらの「もの」にまつわるエピソードを、子供たちや孫たちに話してみてください。「この写真はね、お父さんとお母さんが初めて二人で旅行に行った時のものなんだよ」「このお茶碗は、おばあちゃんが嫁入り道具として持ってきたものでね…」といった語りかけは、彼らにとって身近なところから家族の歴史に触れる入り口となります。
2. 物語として語り継ぐ
単なる事実の羅列ではなく、物語として語ることが効果的です。ご自身の子供時代のこと、若い頃の夢や苦労、結婚の馴れ初め、家族で協力して何かを成し遂げた経験、大切にしてきた家訓や教訓など、具体的なエピソードを交えて話しましょう。成功談だけでなく、失敗談やそこから学んだことも、リアリティがあって子供たちの心に響くことがあります。
3. 記録に残す工夫をする
話して伝えるだけでなく、形として残すことも大切です。 * エンディングノートや別途ノートに書き記す: ご自身の半生や家族の歴史、大切にしてきたことなどを文章で綴ってみましょう。家族へのメッセージとともに記すことで、より想いが伝わります。 * 家系図を作成する: 遡れる範囲で、家族の名前や関係性を図にしてみるのも面白い試みです。子供たちと一緒に作成するのも良いでしょう。 * 音声や動画で記録する: ご自身の声で語る物語は、聞く人の心に深く残ります。スマートフォンなどで手軽に録音・録画できます。
4. 家族と一緒に「旅」をする
生まれ故郷や、ご両親、祖父母が暮らしていた場所など、家族のルーツに関わる土地を子供たちや孫たちと一緒に訪れてみるのも素晴らしい経験です。その場所でかつての暮らしぶりや、そこにまつわる思い出を語ることで、歴史がより鮮やかに感じられるでしょう。
伝える際の心構え
伝える上で大切なのは、完璧を目指さないことです。記憶が曖昧な部分があっても構いませんし、全ての歴史を網羅する必要もありません。伝えたいことから、伝えられる範囲で始めてみましょう。
また、一方的に話すのではなく、子供たちが何を知りたいのか、何に興味を持つのか耳を傾けながら、対話するような形で進めるのが理想的です。「お父さんの子供の頃って、どんな遊びをしてたの?」「おばあちゃんちのあの場所には、何か特別な思い出があるの?」といった問いかけから、会話が弾むこともあります。
最も重要なのは、「家族の歴史やルーツを知ることは、私たち家族全員にとって大切な宝物である」という想いを込めて伝えることです。それが、単なる過去の話ではなく、未来へと繋がる家族の物語として、次の世代の心に確かに受け継がれていくでしょう。
まとめ
資産承継を考えるこの時期は、ご自身の人生や家族の歴史を振り返る絶好の機会です。物理的な資産だけでなく、目には見えない家族の歴史やルーツという「心の財産」を次の世代に伝えることは、家族の絆を強め、お互いを深く理解し合うための素晴らしい一歩となります。
それは、円満な資産承継を実現する上で、法的な手続きや財産分与の方法論と同じくらい、あるいはそれ以上に大切なことかもしれません。家族の歴史を紐解き、ルーツを知る旅は、きっとあなた自身にとっても、そしてご家族にとっても、心温まる貴重な時間となるはずです。ぜひ、できることから始めてみてください。