世代を超える資産の智慧

資産を分ける際の「公平」と「平等」。家族の納得を育むコミュニケーションのヒント

Tags: 資産承継, 相続, 家族間の絆, コミュニケーション, 公平性と平等性

資産を分ける際の「公平」と「平等」は何が違うのか

人生の終盤に差し掛かり、大切な資産を次の世代へ引き継ぐことをお考えになっている方もいらっしゃるかと存じます。その際、「子供たちには平等に分けたい」とのお考えを持つことは自然なことです。しかし、資産の承継においては、「平等」に分けることが、必ずしも家族にとっての「公平」であり、円満な承継に繋がるとは限りません。

では、「平等」と「公平」はどのように違うのでしょうか。

「平等」とは、文字通り、資産を文字通り等しく分けることを指します。法定相続分に従って分ける場合などがこれにあたります。誰にどれだけ、という分配だけを見れば、単純で分かりやすい方法と言えるかもしれません。

一方、「公平」とは、それぞれの家族の状況、例えば、親の介護に尽力してくれたこと、事業を手伝ってくれたこと、あるいは経済的な自立状況などを考慮し、全体のバランスやそれぞれの貢献、そして何よりも「親としての子どもたちへの想い」を踏まえて、最も望ましいと考えられる形で資産を分けることを指します。これは、単なる数字の割り算ではなく、家族一人ひとりの人生や関係性を見つめ直す作業とも言えます。

なぜ「平等」な分け方が課題を生むことがあるのか

単純な「平等」での分割は、一見争いを避けやすいように思えます。しかし、実際には「長年、親の面倒を見てきたのに」「自分は資金援助をしてもらったことがないのに、他の兄弟は…」といった、それぞれの貢献や過去の経緯に対する感情が表面化し、「平等のはずなのに、なぜか納得できない」という状況を生み出すことがあります。

特に、不動産のように分割が難しい資産がある場合や、特定の子供に介護や事業承継などで負担や貢献が偏っているような場合には、機械的な「平等」な分割は、かえって家族間の不満や不公平感を募らせ、その後の関係性に深い溝を残すことにも繋がりかねません。過去にご自身の経験で、そうした難しさを感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

家族が納得する「公平」な承継のために必要なこと

家族が心から納得できる「公平」な資産承継を実現するためには、何よりも家族間の「コミュニケーション」が鍵となります。

  1. あなたの「想い」を伝える: なぜそのように資産を分けたいのか、それぞれの家族にどのような人生を歩んでほしいと願っているのか、これまでの感謝の気持ちなど、あなたの偽りない「想い」を言葉にして伝えてください。エンディングノートに記すことも有効ですが、直接、あるいは手紙などで伝えることで、あなたの真剣な気持ちはより深く伝わります。資産の分配理由だけでなく、そこに込めた親としての愛情や期待を伝えることが重要なのです。

  2. 家族の「状況」や「考え」を聞く: 一方的にあなたの考えを伝えるだけでなく、それぞれの家族が現在の生活や将来についてどのように考えているのか、資産承継についてどのような希望や不安を抱いているのかを丁寧に聞き取る時間を持つことも大切です。すべての希望を叶えることは難しくても、耳を傾ける姿勢を示すことで、家族は「自分たちのことも考えてくれている」と感じ、信頼関係が深まります。

  3. 話し合いの機会を持つ: 一度に全てを話し合う必要はありません。何度か機会を設け、焦らず、お互いの気持ちや考えを共有する場を持つことが望ましいです。特定の家族に負担がかかることについて、どのように考えているかを正直に話し合うことで、誤解が解けたり、感謝の気持ちが伝えられたりすることもあります。こうした話し合いは、資産の分け方だけでなく、家族がお互いを思いやる気持ちを育む大切な時間となります。

  4. 必要に応じて専門家の助けを借りる: 家族だけでは話し合いが難しい場合や、法的な手続き、税金に関わる複雑な問題がある場合は、中立的な立場である専門家(弁護士や税理士など)に相談することも有効です。専門家は法的なアドバイスだけでなく、家族間での話し合いを円滑に進めるためのサポートをしてくれる場合もあります。

まとめ:資産承継は、家族の絆を深める機会

資産を次の世代に引き継ぐことは、単に財産を分配する手続きではありません。それは、あなたがこれまで築き上げてきた人生の集大成であり、家族への最後の、そして最も大切なメッセージを伝える機会です。

「平等」であることだけに囚われず、それぞれの家族の状況や貢献、そして何よりもあなたの「想い」を考慮した「公平」な承継を目指すこと。そして、その過程で家族としっかりと向き合い、コミュニケーションを重ねること。

そうすることで、たとえ資産の分け方が完全に「平等」でなかったとしても、家族はあなたの「想い」を理解し、納得してくれる可能性が高まります。そして、それは資産を円満に引き継ぐだけでなく、家族がお互いを思いやり、支え合う、より一層強い絆を育むことに繋がるでしょう。

資産の承継を通じて、家族の絆と価値観を次世代へと確かに引き継いでいかれることを願っております。